三井物産のDNA
「挑戦と創造」を目指す意識こそが。
「商社不要論」と呼ばれる言説がある。1960年代後半に登場したこの主張は、「メーカーが流通支配力を強めることによって、モノの流れに関与するだけの商社の存在意義はなくなる」というものだった。2000年代以降には、インターネットの普及によって「中間排除」が進み、商社の役割は終焉を迎えるという議論も登場した。こうした主張は確かに、三井物産にとっても自らの機能や役割を再考するきっかけを与えてくれるものではある。しかし、根本的な問題として、歴史の中で総合商社が果たしてきた役割は、物流に介在することだけだったのか?ということは、しっかりと検証しておかなければならないだろう。
第二次世界大戦後、焦土と化した日本の再生を目指して、三井物産は地球規模で資源を調達し、メーカーのマーケティングを助け、日本が世界に冠たる工業国家として奇跡的な再建を果たすプロセスをリードしてきた。確かに、こうしたビジネスにおいて三井物産が得た収益は、「モノの流れに介在する」ことからもたらされていたものであっただろう。しかし、三井物産が展開してきた事業の意味は、決してその点に矮小化して語られるべきものではない。
三井物産が推進する事業の本質的な意味、それはビジネスの仕組みづくりを通じて、より豊かな未来のための価値創造を行うことである。経済や人々の暮らしの中に潜在するニーズを察知し、課題を発見し、創意工夫に満ちた仕組みを考案することで、新たな価値を生み出していくことである。こうした「時代ニーズの産業的解決者」であり続けることにこそ、三井物産の事業の本質がある。三井物産が展開するビジネスは時代の流れの中で進化を続け、実現される価値創造も、今や、極めて高度で多彩なものになっている。そして、そうした進化の推進力となってきたものこそが、一つひとつの事業の現場で不断に積み重ねられてきた「挑戦と創造」なのだ。
「挑戦と創造」とは、すべての社員の中にDNAのように受け継がれている、ビジネスに向かう姿勢を言い表した言葉であり、三井物産が実現する価値創造の源泉である。それぞれの時代、それぞれの現場において、一人ひとりの社員が積み重ねてきたかけがえのない「挑戦と創造」が、新たな事業、未知のビジネスモデル、斬新な仕組みを生み出し、三井物産に進化をもたらしてきたのだ。進化はこれからも続いていく。「挑戦と創造」を目指す確かな意志が存在する限り。
A Mitsui & Co. person will
always allow his or her
daring to be guided
by a keen sense of mission.三井物産の社員は高い使命感のもとに常に勇敢であれ。
水上達三 (三井物産 元社長)
「人材主義」の伝統が育んだ
“人の三井”という評価。
メーカーにおける工場、流通業や外食産業における店舗といった、事業展開を行ううえでの具体的な「資産」を持たない三井物産にとって、「人が最大の資産である」という言葉は、比喩でも何でもなく、字義通りの真実である。三井物産が創造する価値はすべて、人材という資産が存在しなければ、何一つ生み出すことは不可能なのだから。だからこそ三井物産は、「人材主義」を最も重要な企業文化の一つとして受け継ぎ貫いてきた。
三井物産における人材育成を語るとき、よく「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」という言葉が使われる。これは、三井物産における「仕事」と「人」の関係を、プロフェッショナリズムの成り立ちを言い表した言葉である。魅力ある仕事に没頭し、奮闘する中で、本物のプロフェッショナルへと成長していく人材。仕事の現場とは、さまざまな経験、出会いを社員にもたらすことで、スキルや知識を超えた「人間力」を育む場ともなる。こうした、プロフェッショナリズムと人間力を備えた人材が再びビジネスの現場へ散り、三井物産に新たな価値をもたらす事業が生み出されていく…この進化と発展のサイクルこそが、「人が仕事をつくり、仕事が人を磨く」ことにほかならない。
また三井物産は、5,494名 (連結従業員数44,336名) (2022年3月31日現在) にのぼる人材を育成するために、新人からマネジメント層に至るまでの重層的な研修制度を用意している。長年にわたって続けられている海外修業生制度に代表されるグローバル人材育成を目指すプログラムをはじめとして、年次、階層ごとに整備されている充実した研修制度は、三井物産に根付いている「人材主義」の例証と言えるだろう。
個人にとっての三井物産とは、仕事の中で自ら学び、自立したプロフェッショナルを目指そうとする方に、最良の機会を提供するフィールドである。そして三井物産は、「人材という資産」の価値を極大化し、本物のプロフェッショナルへと育んでいくことを、企業としての最も重要な責務であると考えている。
社会から三井物産に与えられた“人の三井”という評価は、長い歴史を通じて「人材主義」を貫いてきた帰結であると言えるだろう。
The individual builds
the business,
and the business cultivates
the individual.人が仕事をつくり、仕事が人を磨く。
橋本榮一 (三井物産 元会長)
イノベーションのインフラとしての
「自由闊達」な企業文化。
「自由闊達」という言葉は、多くの企業において自社の企業文化を紹介する際に使われることが多く、皆さんにとっても、この四字熟語自体から、新たな感慨を呼び起こされることは少ないかもしれない。しかし、三井物産における「自由闊達」は、事業活動の本質、競争力の根幹に関わる、極めて重要な伝統、文化であり、決して字面だけの「わが社の文化」などではないことを、ここでまず明言しておきたい。
三井物産にはそもそも、この製品分野、この業界の中で事業を行わなければならないといった、定型的な「ビジネスの枠組み」は存在しない。社員が本当に求め、チャレンジしようとするのであれば、社会に存在するあらゆるものが、ビジネスの対象となりうるのである。そこでは、社員の自由な発想と能動的な行動が、事業を創出するうえでの最も大きな推進力となることは言うまでもない。現在、三井物産の基幹事業となっている数多くのビジネスも、その成り立ちにおいては、こうした社員の自由な発想と能動的な行動からスタートしているのである。
また、三井物産の中で大切に受け継がれている「人材主義」の思想については先に述べたが、自律的で能動的な個人の成長を促すうえでも、「自由闊達」な企業文化は不可欠なインフラとなるものだろう。年齢・階層の区別なく、すべての社員が自らの考えを自由に主張し、それを上長が度量広く受けとめ、真摯な議論を行うことができる組織風土があって初めて、仕事を行ううえで身に付けておかなければならない理念や価値観が確実に伝承され、プロフェッショナリズムの基盤が形成されていく。そうした意味で、「人材主義」と「自由闊達」は表裏一体の関係にあるものだと言っていいだろう。
「人材主義」と「自由闊達」は、相互に支え合い、共鳴しながら、社員が自らを高め、チャレンジを目指す環境を生み出している。長い歴史を通じて積み重ねられ、三井物産に進化をもたらしてきた数々の「挑戦と創造」は、こうした環境があって初めて実現されるものだと言っていいだろう。
I want to eliminate from this
large organization
the bureaucratic way of thinking
about things.私は大組織からくる人間の官僚的なものの考え方を排撃したい。
水上達三